いじめ防止対策推進法(「いじめ防止法」)におけるいじめの要件を整理すると、3要件を充足して「いじめ」となります。
(1)児童等に対して、当該児童等が在籍する学校に在籍している等当該児童等と一定の人間関係にある他の児童等が行うもの
(2)心理的又は物理的な影響を与える行為(インターネットを通じて行 われるものを含む。)
(3)当該行為の対象となった児童等が心身の苦痛を感じているもの
この(3)の要件をみることでわかるように、被害者の主観的判断に基づく定義が採用されています。したがって、いじめをした児童等に加害の意思がなかったとしても、いじめを受けた児童等が心身の苦痛を感じることで、この要件が満たされることになります。
このような要件のいじめが発生した場合には、学校は次のような法的義務を負うことになります。いじめが児童等にとり大きな問題となることを防止するために、いじめ防止法に基づき、初期段階で、大まかにいえば、学校は、以下のような義務を負うこととされているわけです。
(1)いじめの事実の有無の確認を行うための措置を講じ、その結果を学校設置者に報告する義務(いじめ防止法23条2項)
(2)いじめをやめさせ、再発を防止するため、専門家と協力して被害者・被害者の保護者を支援する義務、及び、加害者に対する指導又はその保護者に対する助言をする義務(いじめ防止法23条3項)
(3)被害者が安心して教育を受けられるようにするために必要な措置を講ずる義務
(いじめ防止法23条4項)
(4)被害者の保護者と加害者の保護者の間の争いを防止するため、いじめに関する情報を被害者・加害者双方の保護者と共有するための措置等の必要な措置を講ずる義務(いじめ防止法23条5項)
(5)いじめを行っている児童等に、必要がある場合には、懲戒を加える義務(いじめ防止法25条)
そして、被害者の主観的判断による「いじめ」があった場合において、次に、「生命心身又は財産に重大な被害が生じた疑い」、又は、「相当の期間学校を欠席することを余儀なくされている疑い」があるときには、「重大事態」が発生しているとされることになり、学校設置者又はその設置する学校は、その学校設置者又は学校の下に、組織を設けて、調査を行う義務が生じます(いじめ防止法28条1項)。これは、いじめの第2類型(教育課題としてのいじめ)と第3類型(法的問題としてのいじめ)の間として考えられる状況での学校設置者又は学校の義務です。重大ないじめ事件を防止するために、いじめ防止法に基づく学校設置者又は学校がこのような調査義務を負うこととされていることは、意義があることです。
しかし、学校に以上のような義務が発生したとしても、このような行政的な義務の問題が、直接、学校設置者・学校に民事的な損害賠償義務を負わせることにはつながりません。裁判所において、いじめの行為の具体的な性質及びその前後の具体的な状況、いじめ行為の継続性などの諸事情が総合的に考慮されて、それらにかかわる学校の行為が、社会通念上、許容されると限度を超えた行為であると認められる場合に、学校設置者・学校は、不法行為(民法709条:ある者(加害者)が他人の権利または利益を違法に侵害する行為を行った場合に加害者に対して被害者の損害を賠償すべき債務を負わせる法制度)に基づき、損害賠償責任を負うことになっています。