自治体コンプライアンス

自治体議会議員による職員へのパワハラ

自治体議会議員による職員へのパワハラ

2021年6月15日読売新聞で、東京都世田谷区議会が、区議会議員から区職員へのハラスメントを防止する条例案をまとめたこと、そして、それが可決される見通しであることが報道されました。また、以前から自治体議会議員から職員に対するパワハラなどについて、いくつもの事件が報道されています。そのような議員から職員に対するパワハラの原因として「議員の側にはアンガー・コントロールの未熟、コミュニケーションの力の不足、議員はエライという思い込み」が指摘されています(太田雅幸「ハラスメントをなくすため議会は何に取り組むべきか」地方議会人2021年5月号16頁)。そこで、議員のハラスメントの防止に関する法制度について確認します。

まず、労働施策総合推進法の改正により(改正部分が「パワハラ防止法」と呼ばれる部分です)、パワハラについての行政法的な規制がなされました。この改正法で、初めてパワハラが法律上定義されました。そして、この法改正は、民間企業におけるパワハラ防止対策について大きな影響を与えるもので、事業主について、パワハラに関する相談体制の整備、パワハラ事案に関する相談体制の整備、パワハラ事案に対する会社としての懲戒処分等の方針の制定・周知そのほかパワハラ防止のための雇用管理上の措置をとる義務などを定めるものです(なお、セクハラについては、男女雇用機会均等法で定義されています)。この法改正については、一部を除き、地方公務員にも適用されるものです。

この点から、自治体議会議員についても、地方公務員であることから、パワハラ防止法適用が問題となり、また、事業主による雇用管理上の措置義務については、議員を雇用する自治体の代表者である首長の雇用管理上の措置の対象となるかどうかが問題となります。

自治体議会の議員の法的な地位については、曖昧なものであり(大森彌「自治体議員の法的位置づけをめぐって」『地方自治法施行70周年記念自治論文集』[総務省 2018]311頁以下)、地方自治における二元代表制の趣旨を考えると、自治体議会議員について自治体の首長による雇用管理上の措置の対象として考えることは妥当ではないと考えられます。パワハラ防止のための管理上の措置を考える主体としては議会と考えるべきと考えられます。
このように考えると、自治体議員から職員に対するハラスメントについて、いわゆるパワハラ防止法に基づく自治体組織におけるハラスメント防止ルールは、適用されないものと考えられます。

以上を前提とすると、現在、法制度上、自治体議会議員から職員に対するパワハラを防止するための法的なルールが存在していないことになります。このような状況は極めて不合理なものであると言わざるをえません。このような状況である以上、議会自身によるパワハラ防止のためのルール作りが期待されるものです。しかしながら、自治体の組織において職員のためのハラスメント防止研修等がなされている一方で、自治体議会においてルール作りはほとんどなされていない状況で、自治体議会議員のためのハラスメント防止研修はほとんど行われていない状況のようです(高嶋直人「地方自治体のハラスメント防止対策の現在、そして未来」地方議会人2021年5月号72頁)。

民間企業においてパワハラを含めたハラスメントの防止について、多くの対策が議論されている中で、自治体職員のハラスメント防止ルールを十分に定めていない地方自治体もあります。そして、自治体議会においては、パワハラを含めたハラスメントの防止のルールはほとんど策定されていない状況です。ハラスメントの防止が社会における重要な課題である以上、地方自治体議会のハラスメント防止ルールを策定しなければいけないものと考えます。私は、弁護士として、まず、このような動きに対する応援をしていくことができればと思っています。

  • 選挙ドットコムに掲載した記事です(2021年6月20日)

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