学校でいじめが生じた場合、マスメディアの報道では、学校の責任の問題のみに焦点があてられて報道がされることが多いのですが、いじめの一次的な責任は、加害者とその親権者が負うべきものです。すなわち、いじめについての法的責任の問題は、一次的には、加害者とその親権者が責任を負うものであり、二次的に学校の法的責任が生じるという関係になっています。
そこで、第一次的な加害者とその親権者の法的責任について検討します。まず、いじめは、直接的には、子供同士の問題です。しかし、加害者から被害者に対する損害賠償という法的な問題となれば、双方の保護者が当事者として出てくることになります。
損害賠償については、加害者の生徒に責任能力(その自分の行為の責任を弁識するに足るべき知能を備えていることで、損害賠償責任の前提となる能力のことです)がないと判断されれば、加害者本人は損害賠償責任を負いません(民法712条)。そして、この場合、監督義務者(未成年者を監督すべき法定の義務のある者)が加害者に代わって損害賠償責任を負うことになりえます(民法714条)。
他方、加害者である生徒に責任能力がある場合であっても、監督義務者である保護者の義務違反とその生徒の加害行為(不法行為)によって生じた結果との間に相当因果関係があると認められるときには(保護者の義務違反・生徒の加害行為が原因となって生じた結果のすべてについて損害賠償をするべき因果関係があるということでなく、社会通念上相当と認められる範囲での因果関係が認められるときには)、監督義務者にも民法709条に基づく損害賠償責任が発生するものです。そこで、加害者である生徒本人が責任を負う場合であっても、法定代理人(法律により代理権を有することを定められた者:民法5条)が被害者の生徒・保護者と損賠賠償責任に関する交渉をすることになります。
ほとんどの場合、加害者である生徒の父母が、このような監督責任者や法定代理人となるものです。このようにいじめ事件における損害賠償責任の問題においては、加害者の生徒の父母が、重要な地位にあるものです。しかしながら、このような加害者の父母の法的な責任の問題がクローズアップされていないのが現状です。法的な視点から、学校設置者・学校の法的責任の検討が重視されていますが、教育的な視点からすれば、加害者の父母の責任についても、もう少し関心がもたれてもよいように思われます。
(参考文献)
神内聡『第2版 学校内弁護士』(日本加除出版 2019)89-90頁
関口博=菊地幸夫『学校事故の法務と対処法Q&A』(三協法規出版 改訂版 平成28年)149-151頁