いじめの法的問題

いじめにおける学校設置者や学校の責任

 いじめに関して教員の法的責任(教員が故意又は過失によっていじめ被害者の権利又は法律上保護される利益を侵害したと認められる場合)がある場合、学校設置者である区市町村や学校法人がどのような責任を負うかが問題となります。

 まず、公立学校の教員(県費負担教職員:市〔特別区を含む〕町村立の小学校、中学校などの教職員)の法的責任が認められた場合、国家賠償法により、学校設置者である教育委員会が属する地方自治体が法的責任を負うことになります(国家賠償法1条1項)。

教員は、いじめ被害者に対して、個人として、直接、損害賠償責任を負うことはありません。ただし、いじめ被害者の権利又は法律上保護される利益を故意又は重大な過失(故意と同視しうる程度の過失のこと)により侵害したと評価される場合には(教員にいじめの問題について故意・重大な過失がある場合はほとんど考えることはできないと思いますが)、学校設置者から、学校設置者がいじめの被害者に対して支払いをした損害賠償について、その教員に対して、求償をすることができるとされています。したがって、その限りにおいて、その教員は個人の法的責任(損害賠償責任)を負うことになります。

次に、私立学校の教員の法的責任(教員が故意又は過失によっていじめ被害者の権利又は法律上保護される利益を侵害したと認められる場合)がある場合、その教員は、いじめの被害者に対して直接損害賠償責任を負うことになります。そして、学校設置者である学校法人は不法行為法上の使用者責任(民法715条1項)に基づく損害賠償責任を負うことになります。この使用者責任とは、一般的には、従業員が仕事上のミスで第三者に損害を与えてしまった場合に、 損害に対する直接的な加害者でない雇用主がその損害賠償責任を負うとされている制度で、教員は学校法人に雇用されていますので、教員が生じさせた損害については、その雇用主である学校法人が責任を負うことになるのです。また、私立学校の場合には、いじめ被害者は、学校法人との間の在学契約があることから、学校法人がこの在学契約に附随する義務である安全配慮義務(教育課程において児童・生徒の安全を確保すべき義務)に違反したことを理由として、契約違反に基づく損害賠償請求(債務不履行に基づく損害賠償請求:民法415条)をすることが考えられます。

以上のように学校の教員の責任については、公立学校と私立学校の場合で異なることになっています。

(参考文献)

神内聡『第2版 学校内弁護士』(日本加除出版 2019)46頁

山口卓男編著『新しい学校法務の実践と理論』(日本加除出版 2014年)125頁

関口博=菊地幸夫『学校事故の法務と対処法Q&A』(三協法規出版 改訂版 平成28年)153-154頁

県費負担教職員の加害行為の場合について:関口博=菊地幸夫『学校事故の法務と対処法Q&A』(三協法規出版 改訂版 平成28年)164-165頁

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